甘い えいEN の味

ハロプロのお歌について

『裸足の季節』と置いてけぼりの日本人

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<ものがたり>

北トルコを舞台に、自由を求めて古い慣習から抜け出そうとする5人姉妹の運命を瑞々しいタッチで描いた青春ドラマ。10年前に事故で両親を亡くし、祖母の家で叔父たちと暮らしている5人姉妹。厳格なしつけや封建的な思想のもとで育てられた彼女たちは自由を手に入れようと奮闘するが、やがて家族が決めた結婚相手にひとりずつ嫁がされていく。

引用(裸足の季節 : 作品情報 - 映画.com

 

みてきました。

フランス映画、すきだけど途中で寝ちゃうので、退屈だったらどうしよう〜とか思っていたくらいには予備知識なしで行きました。

5人姉妹が(携帯)電話やパソコンなどの電子機器から、化粧品や可愛いお洋服まで取り上げられて、ほぼ軟禁状態にされるっていう情報は耳にしていたので、まさか現代…?とは思っていたのですが、上映直前に調べたらマジで現代でした。

ただ、舞台がかなりの田舎なので現実味を帯びてこない、どこか遠くの世界の物語(まあ実際そうなのですが)という風に感じる人は多いかもしれません。

 

感想をひとことでいうのなら、最高でした。映像のうつくしさは勿論、内容もまったく退屈させないものです。以下ネタバレ。

 

 

主人公は(たぶん)末っ子。

この物語に登場する主な人物は5人姉妹と、姉妹を育ててきた祖母、いっしょに暮らしている叔父さん。

5人姉妹の末っ子・ラーレは13歳で、映画は基本的に彼女の目線ですすみます。なのでたぶんこのラーレが主人公なんですが、5人姉妹はそれぞれ魅力的に描かれているし、みんな違った道をゆくので、感情移入できるひとが主人公ってことでいいとおもう。もちろんおばあちゃんでも。

 

ちなみに長女と次女の顔がちょっぴり似ているし、三女も背格好がそう変わらない(髪型も髪色もほとんどみんな一緒)ので、感想を見ているとそこ混乱してる人が多かった。

 

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一番左の子が四女のヌルです。結婚させられる寸前のところで、五女のラーレ(左から4番目)といっしょにイスタンブールへと逃亡。

おっとりした雰囲気の子でした。叔父のエロルに性的虐待されているような描写があったかもしれません。ここ、三女のエジェかもしれないし、そもそも虐待されてないかもしれません。すごく曖昧でした。パンフレットでも特に触れられていなかったので。

 

左から2番目の子が長女のソナイ。エキンという名前の恋人がいて、結局彼と結婚します。

 

真ん中の子が次女のセルマ。オスマンという名前のよくわからん男と結婚させられます。婚礼の日の涙が印象的でした。

初夜で血が出なかったので、処女じゃなかったのではないかと夫家族に疑われます(なんじゃそりゃ)。その夜のうちに病院に連れていかれ、処女検査を受けさせられます。

医者にまで「ほんとは処女じゃなかったんじゃ??」的なことを言われ、セルマは「世界中の男と寝た」というのですが、処女膜がまだあるので処女ってことになりました。そのうち破れるでしょうと(処女検査する意味なさすぎるな。そもそも処女膜って実在するんでしたっけ。。。?)。

「処女だと言っても誰も信じません。もううんざり」

それな。

 

そして左から4番目が末っ子のラーレ。強い子です。トラック運転手のヤシンという男に運転を教えてもらい、イスタンブールへと逃亡する計画を立てます。

 

一番右が三女のエジェ。内気な性格で、中盤まではこれといって目立ちません。ただ、彼女もお見合いをさせられ、いざ結婚。。となった時に自ら命を絶ちます。これ知らなかったので衝撃的でした。エジェが段々と壊れていく様子はしっかりと描かれているので、そこはよかった。

 

意外だったとこ。

そもそも何でこの五人姉妹が自由を奪われていったか(柵とか鉄格子がどんどん増えてく...)っていうと、物語の冒頭に原因があるわけです。これが意外でした。べつに、生まれたその瞬間からとか、おばあちゃん家に預けられた時からってわけじゃないのです。

 

冒頭、姉妹は学校帰りに男の子たちも交えて海で大はしゃぎするのですが、どうやらこれがまずかった模様。男の子に肩車されて所謂騎馬戦のような遊びをするんですが、そこを隣人のおばさんに見られてました。おばあちゃんに告げ口されてしまい、ちょー怒られます。

「男の子たちの首に下半身をこすりつけるなんて!」という理屈のようです。

 

意味がさっぱりわかりませんし怒りを覚えますが、まあ日本でも思い当たる節はあります。そんな突飛な反応ではないですよね。監督のコメントに、「女性であることのすべてが、絶えず性的なものと捉えられているのです。女性もしくは少女の行動のすべてが、性的な衝動に駆られているかのように解釈されます」という言葉がありました。まじそれな。

 

印象的だったとこ。

特に印象的だったのは、ラーレがイスタンブールへと向かうバスの中で見た夢のシーン。おそらく、物語の中盤で5人そろってサッカー観戦に出かける(勿論叔父たちには内緒で。バレたら半殺しのリスク)エピソードがあるのですが、その回想ではないでしょうか。

村の女の子たちがみんな行くってんで、送迎の車が出るのですが、姉妹はなんやかんや間に合いません。そこで、偶然通りがかったトラック運転手のヤシンに送迎車を追ってもらいます。たぶんその荷台に乗ってたときの回想だと思うんです。違ったらごめんね。

ぐっとくるのは、そのシーンでスクリーンに映ってるのは三人の姉の後ろ姿と横顔だけなんです(たしか)。つまり、5人で乗ってて、前(車からすると後ろ)にお姉ちゃん3人、後ろに妹2人という配置だったのかな? (いまパンフ確認したら、横かもしんない。荷台の左右に姉3人、妹2人。お互い外側を向いてるから、妹側が振り返ると姉3人の後ろ姿) まあ何はともあれ、ラーレの目線で姉たちが捉えられてるんです。5人が楽しく荷台に乗ってキャッキャウフフしてる回想じゃないんです。その姉たちの姿がめちゃくちゃ綺麗。顔の造作とかそういうのではなく、諦めや失望もなく、ほんの束の間の自由を謳歌する最後の姿。でももう二度と見ることのできない姿。

 

末っ子のラーレが一番賢かったであるとか、もしくは強かったであるとか、そういったように見えてしまいがちだけれど、実は特別そういうことでもなくて、彼女は姉たちの後ろ姿をただしっかりと見てたんだろうと思います。

 

また個人的には、恋人と幸せな結婚をしたはずの長女ソナイも、その「失われた自由」に含まれてるってとこがぐっときた。次女のようにひどい扱いを受けたわけでもなく、三女のように自ら死を選んだわけでもない。それでもやっぱり彼女も自由を奪われてるわけなんですよね。恋人と結婚したからといって、鳥籠から出されて自由に羽ばたきましたってわけではない。個人個人の幸せについてどうこういうってのも無粋な話かもしれませんが。「よく知りもしない男と結婚させられる」っていうの、悲劇的なのは「よく知りもしない男」ってとこなんでしょうか。勿論それだって十分に最悪ですが。「嫁に行く」っていうことの意味が、そもそも女性にとったら不自由なことです。男性にとってだってそうかもしれません。家事を完璧にこなして、クソ色の服を着て、謙虚に振舞っていること。そういうことに姉妹たちは反抗していました。というか、それを押し付けられるということに。

 

でも、結婚しちゃったらそれはもう、立派な服従に他なりません。勿論ソナイは悪くないです。与えられた選択肢の中で、最も自分が幸せになれる道を選んだだけです。だってこのまま抗い続けたって最悪殺されるかもしれないですしね(実際、家から逃げ出す際にラーレとヌルは伯父に銃で殺されそうになってます)。

 

そういったことも含めて、ともに古い価値観に抗う「同士」のような存在であったソナイが「喜んで」結婚し、自分のもとを去ったということは、ラーレにとってはやはり「自由は奪われた」ということなんでしょう。まだ酔いつぶれて泣きながら嫁に行った次女の方が、「抗っていた」といえるもん。

 

がっかりしたとこ。

こちらは2つあって、1つめは「邦題」と「キャッチコピー」。

この映画の原題は『MUSTANG』。意味は「野生の馬」です。監督のコメントから引用すると、「溌剌として扱いにくい5人姉妹を象徴している」とのこと。対して邦題は『裸足の季節』です。推測ですが、この記事にも使っている、一番上の画像のシーンから来ているのではないかと思われます。この場面では、5人姉妹はまだ家に閉じ込められたばかりで、とりあえず元気いっぱいです。というか、いわゆる「美しいシーン」なんですよね。他の方の感想とか見ていると、「生足でわちゃわちゃしている美少女たちがよかった!」みたいなコメントも多く、もうちょい知的にすると「思春期の少女特有の儚げな美しさ」ってとこでしょうか。どちらにしても吐き気がしますね。この人たち本当に同じ映画みてたのでしょうか。

キャッチコピーは「夢みる季節は 終わりが来るから 未来へと走りだす」ということなので、「夢みる季節」=「裸足の季節」なのではないかと考えられます。少女たちの「いつかは終わりがやってくる」儚げな一面を切り取った『裸足の季節』と、少女たちの溌剌とした力強さを象徴した『MUSTANG』。まあ好みなのかもしれないけど、「美少女」とやらに独特の夢を持っている日本ならではの発想そのものって感じでわたしは嫌だった。

ていうか、このキャッチコピーもよくわかりません。「終わりが来るから」とか他人事かよ。そもそも「自由な人生謳歌したい」ってのがそんな特別な夢かよ。「終わりが来た」んではなく、「強制的に終わりにさせられ」てるんじゃないの?しかも「女だから」という理由で。未来へと走り出したっていうか牢獄から逃げ出しただけなのでマイナススタートじゃん。。と感じました。

どうもこの「美しさを愛でる」みたいの良いんですが、たしかに本当に美しいんだけど、触り心地の良い表面だけペラ〜って撫でてあとはもう「トルコひでー国だな。イスラム教ひでーな。日本はこんなじゃなくてよかったな」ってすっごい他人事なの腹たつんですけど。

 

もうひとつのがっかりポイントは、上記とも関連してくるんですが、見た人の感想。 もちろん、映画を見て何を感じて何を書こうと自由だから、わたしにそれを制限する権利はありません。だから怒りというよりも「がっかり」なんですが、こんなにフェミニズム満載の映画みてもぜんっぜん伝わらないんだ〜と思いました。

美少女エロい!とかいう感想はまあ論外っていうかたぶん違う映画の話してるんでしょう。きっとね。

どの感想を読んでもみんな「未だにこんなひどい国があるんだ!日本では考えられない!」とか、「姉妹美しかった。。」とかばっかりで、わたしもそれを感じないわけではなかったけど、あんまり共感できなかった。いつも映画を見たあとは、他の人の感想とか検索して「ここそういう意味だったのか〜」とかやるの楽しくて大好きなんですが、こんなに違和感を覚えたのはこの映画がはじめてでした。

そもそも「日本では考えられない」っていうの、あまり同意できないんですよね。わたしの母はめちゃくちゃ男尊女卑家庭で育って、わたしはそのお隣のお家で暮らしているんですが。みなさんが「今時考えられない」っていうようなすごい家庭ですよ。農家で長男教。母の実兄(つまりわたしの叔父)は長男なんで、ものすごく甘やかされて育ってます。わたしは「女」なので口をきいてもらったことがありません。わたしの兄とはすごく喋るんですが... 長くなるし映画に関係ないので詳しくは言わないけど、「こいつを殺しても犯罪になるなんて、なんて酷い世界なんだ」と思ったことが複数回あるし、実際母は包丁を持って彼を追い回したことがあるそうです(ばれて親にぶん殴られたらしい)。つまり、この映画がそんなに他人事には捉えられない。

第一、この映画に登場するこの「家庭」がちょっと特殊なような気がしないでもないです。もちろん閉鎖的な田舎であること、イスラム教の戒律が厳しいことなど、そういった背景があってああなっちゃうっていうのは理解できるし、事実でしょうが、彼女たちが軟禁されるのがあまりにも突然すぎる。いくらそれまで子育てを祖母にまかせっきりにしていたとはいえ一緒に暮らしていたのに、あんな急に「おまえら売春婦か!!」なんてブチぎれるのは。。姉妹も驚いてるし。

作中、この叔父は「アンチフェミニズム」的思想を持った人間であるという描写はされてるんです。しかも中盤、ラーレの友達かなんかが窓の外から「もう学校にこないの?」なんて聞いてるし、やっぱりちょっと異常なんですよね。そもそも村の他の女の子たちはサッカー観戦にだって自由に行けるわけ。まあそれが「裸足の季節」なのかもしれないけどね。子供の頃は許されるが、ある一定の年齢になったら。。的な。

(「女性はスポーツ観戦もできないなんて!」という感想を見かけて思い出しました。たしかに日本では「女性がスポーツ観戦をするなんてはしたない」とはさすがに言われることは少ないでしょう。でも、ワールドカップ時の渋谷で性犯罪に合った女性たちに、「そんなとこだって分かってて行ったんだから、女性に責任がある」とか「わざわざ渋谷行く女がアホ」とかいう論調が強かったのはっきり覚えてますけど。。)

 

ラーレとヌルが家から逃げ出す時にも、「行かせてやれ」って伯父に声をかけてる男性もいました。だからこの叔父、やっぱちょっとおかしいんですよ。国とか宗教関係なく。こういう過激なアンチフェミニストは、これから先の日本にだっていつ現れても不思議じゃないとわたしは思ってます。

「あんな柵とか鉄格子とか家につけるなんて有り得るの?」ってのは、わたしもそう思ったのは事実です。でもある種の隠喩として受け取るとそこまで不可解には思えません。こういった物理的な「力」でなくとも、女性を閉じ込めて支配することはできます。たとえば経済力を奪うとかなんかが代表的ですかね。

 

結婚しなければ出ることのできない檻、でも結婚したらまた別の檻。子供を産めばさらなる檻。子供が巣立ってもまた新たな檻。どこまでいっても檻。わたしが今実際に感じてる牢獄のような世界そのものなんですこの映画。

 

想像してみてほしいです。映画じゃなくて、美しい5人姉妹でもなくて、日本のどこにでもいる名前も知らない女子高生。あなたは買い物帰りかなんかに、海ではしゃいで男の子の肩に跨る彼女たちの姿を見ます。率直に何を思うんでしょうか。

「楽しそうでいいなあ」とか「青春だなあ」とか思う人ももちろんいるでしょう。「リア充死ね」まだマシです。「制服のまま海に入るなんて何考えてるんだ」まだわからないでもないです。でも本当に、「はしたない」とか「エロい」「うるせえブスが騒いでんな」とか思う人、いないって言い切れますか??同じことを男子高校生に対しても思う人、どれくらいいるのかな??

本当、日本国民どいつもこいつも×3他人事だな。そんなことを思いました。映画自体の感想というよりも、映画の感想の感想になってしまいましたけど、映画自体は文句なしに最高なので必見です。

 

ついでに。

映画館を出たあとにしつこくカラオケに誘ってきやがったクソジジイ、さっさとくたばれ。「この暑いのに色気づいちゃって〜」じゃねんだよカス。こっちはいつだって当事者なんだよ。

 

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おしまい。

 

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